「西条の水事情」現況

「西条の水資源」の理解のための補説 《明比昭治の見解(2009年6月)》

生物の生存のためには水と空気(酸素)は欠かせない。地球自然界の空気は境界は無く存在発生する。しかし、水は一定の枠の中にしか留まらないので地域固有の資源として扱われるものである。
人の手により、自然の摂理を変え、生かす知恵を働かせてもいるが、破壊したり、紛争もいたるところで引き起している。人類の(生物ともいえるが)性の歴史でもある。

『西条の「水資源」を松山に』との、人為的発想が、紛争にもなりかねないので、お互い正しい理解が必要と思うので、あえて西条の水資源の現状を報告しておきたい。


1.
 最初に西条に、県が「黒瀬ダム」も造り、「加茂川総合開発」の水資源活用の一貫として、県の公営企業管理局が「西条地区工業用水道事業」を行っているが、この水が計画通り売水出来ていないので、余っていると言われているが、果たして余っているとの捕らえ方が適切であるのかどうか慎重に考える必要がある。

 そこで基本的に誤ってはいけないことは、この水資源は西条(合併したので旧東予を含む)・新居浜の産業振興のための「工業用水」を確保するための目的事業による水資源であって、一般生活用の「上水道」(以下「生活飲料水」と同義とする)ではない。西条市域での飲料水は全て地下水であり、地下水を涵養の役割はあるが、直接「上水道」事業へは一滴も使われていないのである。

 松山が求めているのは、「上水道」の水であると思われるが、事業の目的外への要望であり、筋が違うものである。筋を変えるなら、そもそも事業の起源に帰って見直さなければならなくなる。

 企業を立地させ、雇用の場を確保し、地域に産業活力を創造しようと、東予新産業都市の指定を目指して計画時の、昭和30年代の産業界には、水を豊富に使えることへの要請があった。

 しかし、公害紛争などの歴史も経て、今日では、水は貴重な資源として、循環・再生利用が必須用件である。したがって企業が立地しても思うほど水利用が無いのであり、時代の変遷が様子を変えたのであり、今回、公営企業管理局の経営規模を見直し、給水量日量229千トンから、将来予測をした上で、87,420トン〔取得水利権は日量94,000トン〕に思い切って縮小したことは、止むを得ないし適切な処置であろう。

 松山地域の「上水道」などの水資源対策として、過去にも「面河ダム」、今日も「山鳥坂ダム」建設計画の中で取り組まれながらも、松山市自身が確保しなかった責任は、「上水道事業」の責任者として重いものがあり、筋違いな県におんぶをねだって済むことではない。


2.
 さらに誤解を生んでいるのは「黒瀬ダム」が、さも水資源の大きな役割をもって、「工業用水」として使われているかのごとく表現されているが、「黒瀬ダム」の貯水から、直接配水はされていないのである。

  「工業用水」はダムから下流約4キロの長瀬において取水堰を設け、先に述べた「加茂川総合開発」の水資源として、取水していることを正確に説明されていないので、「黒瀬ダム工業用水」などと誤った理解や表現につながっている。

 一般的に知られていないが、『長瀬取水堰』で取水した後、「工業用水」として配水されている水の主な要因を分析すると、

ダムより上流約20キロ以上の石鎚山など流域を起源として流れる(加茂川本流)水は、大保木の名古瀬・東の川・細野などの取水口などで取水され、住友共同電力の「大保木発電所」での発電用水に送られ、黒瀬ダムには流入せず、隧道によりバイパス迂回して、ダム下流約3キロにある住友共同電力の「兎之山発電所」(毎秒約4トン・日量345,600トン)に送られ、加茂川に放流されている水。

寒風山方面の流域を起源とする水が、谷川(加茂川支流)を流れ、先に述べた住友共同電力の「兎之山発電所」に3箇所ほどの取水口から隧道で送られ、発電に利用され(毎秒3.4トン・日量293,760トン)た後、最終的に加茂川に放流されている水。
【※発電の為の最大出力に基ずく計算上の数字であり、実際はもっと少ないだろう】、

の合計の日量639,360トン・毎秒7.4トン)が、85%の役割を果たしているのであり、

通常「黒瀬ダム」は貯水してはいるが、現況毎秒1トン程度(日量86,400トン)の放出により、500メートル程度の下流で、ダムよりの落下の水圧を利用して、住友共同電力の「黒瀬発電所」に供することも目的の1つとして生かされているが。「工業用水」に生かされている要因としては、通常15%程度である。

 したがって、「黒瀬ダム工業用水」との表現や、理解は適切では無いのである。

 ゆえにダムに重点を置いての水利用と言うのなら、今回の「西条地区工業用水道事業」経営見直しによる必要水量【取水日量87400トン(約毎秒1.0トン)】を確保するには、現状でも確保できるので、言い換えれば、ダム周辺流域以外から集水した全水量は、そもそもの加茂川の河川維持用水として、長瀬堰を越えて流されても、「工業用水」に支障なく運営できるとも思われる。

【※大雨や異常渇水など通常以外の根拠での数量論争は、混同しないで理解願いたい。
もちろん、洪水調節や渇水対策のために「ダム」の役目は重要であり、否定するものではありません。】


3. 
最近の気象状況では、「工業用水道事業」に、日量約60,000トン・毎秒約0.7トンを取水した後、長瀬堰を越えて加茂川に流れている水量は、通常雨量があるときで、約毎秒8.6トン程度【前述の最大出力計算上で、実際はもっと少ない】と思われ、この場合は瀬戸内海まで水が届く。

 渇水状況にある現況(5月)では、毎秒約3トン程度であり、途中2つの農業用水の取水もあり、加茂川橋まで表流水が届いていない。

 最近は殆ど4ヶ月余りがそんな状況である。

 今年の6月は毎秒約2トン程度【ダム管理事務所で確認】、西条市街の地下水の自噴が止まる目安は、武丈堰を表流水が越しているかどうかにあるが、ここに流れていない状況で、いたるところで自噴が止まっている状況を生んでいます。

 今次の県公営企業管理局の「西条地区工業用水道事業」の経営見直しにより、ダムの余剰貯留権としての、日量141,580トン(毎秒1.6トン程度)の活用の問題があるが、これは西条市民の生活用水の確保のためにも、河川の自然生態系保全のためにも、河川維持用水として絶対に必要な資源である。

 このようなことから、西条市民の潤いをもたらし、安心な生活を担保する必要から、今日では合併による市域の倍化もあり、余った水資源とは決していえない。


  以上が加茂川の水資源が生かされている現状の概要です。西条市民にとって「松山の水不足」は理解するが、
西条市内の現状として(松山も同じ悩みであろうが)

①旧西条市内でも、1人あたりの水使用量が増えていることも起因するが、地下水の水位が低下しつつあり、海岸部では塩水化も進み、地下水による生活用水が確保出来ず、市の「上水道」(簡易水道を含む)は約25%の普及率であり、都市化の進展にも伴い、地下水を水源とする「上水道」のあり方を検討しなければならない。

②渇水時期には、市の中心部以外では「農業用水」が確保出来ず、市の東部では昔から田植えもままならない地域もあり、西部では面河からの道前用水を利用している地域もあり、水資源の確保が、重要課題の地域を擁している。

③今日は合併により、水資源に最も確保を苦労している、小松地区(市の上水道普及率99%)や丹原地区(市の上水道普及率80%)、旧東予地区(市の上水道普及率70%)の全般に、市の行政責任として市民の安定した生活用水の確保や、農業用水の確保の課題がある。

など、不足する水資源対策は、西条市も最も重要な課題です。

 地域課題はもとより、地球規模でも水資源の課題は人類の課題です。
地域固有の資源として、現状の正しい認識の上に立って、そこに住む人の安心できる生活用水の確保が、優先されて考えられなければならない問題であることを、お互い認めあう必要があり、その上で、将来ともに安心できる余裕を求めて、人道的に広域的配慮はされなければならず、不毛な感情対立は避けなければなりません。

1
黒瀬ダム湖(貯水率56%・6月15日)
2
ダム堰堤から下流をのぞむ(放流は無し)
左に黒瀬発電所への流水路あり
3
加茂川と谷川の合流地点(兎の山発電所下)
通称「東宮」
4
黒瀬ダムより下流4キロにある長瀬取水取水堰
ここから「工業用水」は取水している。
5
「神戸橘土地改良区」農業用水取水口
(舟形橋下)
6
「大町土地改良区」農業用水取水口(武丈上)
武丈堰(ここで水は枯れている)
武丈堰(ここで水は枯れている)
武丈堰から下流をのぞむ(全く流れ無し)
武丈堰から下流をのぞむ(全く流れ無し)

県営「西条地区工業用水道事業」の見直しに対する見解は、■議会報告のページ(2009.4.1)第36号をご覧下さい。